レポート
2025.08.08
2025.08.08
学校設定科目「ミライのための平和プロジェクト」を履修する3年次生18名が、7月28日から8月2日までの6日間、広島と瀬戸内海の島々を巡る研究旅行を行いました。
本校では1970年代より、平和な社会の実現に主体的に関わるためのヒロシマ研究旅行を行っています。戦後80年を迎えた今年、日常生活の中で「平和」という言葉を使う場面の少ない高校生にとって、それを実感をもって考える難しさが、現代の平和学習の課題です。言葉や映像で戦争の悲惨さや平和の大切さを学ぶだけでは、十分とは言えません。そのため、出発前には、生徒自身が「平和が失われる場所や状況」を自分の経験にひきつけて考え表現するための対話や創作活動を行いました(※)。
研究旅行では、「平和」という言葉が大切に語られてきた、歴史と記憶が深く刻まれた場所を訪れました。とくに広島では、家族伝承者の細川洋さんをお招きし、かつてあった「普通の暮らし」が原爆によって一瞬で失われた体験を語っていただきました。生徒たちは、語られる言葉だけでなく、その背後にある沈黙や、言い表せない感情の重みにも深く向き合いました。3日目には核兵器と同じ無差別兵器(毒ガス)による日本の加害の歴史を、大久野島で学びました。4日目には、ホロコースト記念館を訪問し、民族を排除する思想や、国家による非人道について学習しました。
5日目は、ちょうど開催された瀬戸内国際芸術祭の夏会期初日でした。大島青松園にて、ハンセン病療養所の歴史を踏まえたアート作品を前に対話型鑑賞を行い、平和や平等への「形なき言葉」を探る時間を持ちました。
これらの体験を通して、生徒たちは、日常の中では意識する機会の少なかった「平和」を語る必要性に気づきはじめています。言葉では語りきれない痛みや非人道に触れ、それを実感のあるじぶんの言葉に翻訳し、再構築していくことは、言葉や情報があふれる現代を生きる生徒にこそ必要な学びだと考えています。
研究旅行の学びは、9月に開催されるオレンジ祭にて学校内展示として公開予定です。生徒自らが語り手となり、「平和」を問い続けるプロジェクトにぜひご期待ください。本校では、今後も体験と対話を中心に据えた学びを深化させ、自ら世界とかかわる力を育てていきます。
※・・・事前学習では、ハンセン病問題を手がかりに「声を聴いてもらえない」ことの辛さや悲しみを、学校での経験の中から探り出し語り合いました。また、画家・山内若菜さんの指導のもと、生命あふれる作品を鑑賞した後、自らの弱さや葛藤を可視化する絵を描き、絵について語り合うワークショップを行いました。
写真では何度も目にしたことがある原爆ドームの前で、生徒たちは静かに立ち止まります
講話いただいた細川洋先生が手にしている本は本校ヒロシマ研究旅行を始めた教員・亀井博が関わった「森脇遥子の日記」です
中国戦線で使用された毒ガスを生産した島では、戦後に増えたたくさんのうさぎが平和に暮らしています
アンネ・フランクの部屋などを展示する日本唯一のホロコースト記念館は平和学習には欠かせない場所です
国立ハンセン病療養所大島青松園内の現代アートは、言葉では表現しきれない現実を静かに語りかけてきます
瀬戸内国際芸術祭のパスポートを手に、最後に訪れた女木島のアート作品の平和と幸せを体中で味わいました